短説ＭＬ座会への作品投稿の仕方／見本

作品投稿見本

メールの件名：作品「意味の中へ」（東葛98/6・２稿）

　　　意味の中へ
　
　　　　　　　　　　　　　西山　正義
　
　五段組で、三五二八頁もある国語大辞典を
眺めていたら、僕の体はみるみる小さくなっ
て、いつのまにか本の中へ吸い込まれていた。
　見出し語より小さくなってしまったのには
参った。僕はやはり見出しにはなれないとい
うことか。手足を広げて大の字に寝ると、ち
ょうど注釈文の活字ぐらい。僕は痩せている
ので、ゴシック体にもなれない。
　それでもこんな遊びを見つけた。活字に変
身して、注釈文に割り込む。すると意味が変
わる。笑えるものもあったが、変身できる活
字は限られているので、すぐに飽きてしまっ
た。それで、散歩してみることにした。
　最初は楽しかった。いろいろな言葉、語彙
に出会え。ところが、五十音配列の辞書は、
隣合う言葉が脈絡もなく無関係に並ぶし、ま
ったく意味の異なる同音の言葉もたくさんあ
って、それらの間を彷徨っているうちに、だ
んだん気分が悪くなってきた。なにしろ等身
大で迫ってくるのだ。眩暈がしてきた。
　なんたる意味の氾濫！　吐きそうだ。これ
以上こんなところにいたら、頭がおかしくな
る。しかし、どうやっても抜け出せない。
　誰か来た。愛子さんだ。今年、ミス梨の里
に選ばれた美人図書館司書。助かった。顔が
覗いた。巨大だ。さすがの美女もここまでア
ップになると不気味。アッ、本が閉じられた。
手を振って叫んだのに。しまった、今日はシ
ャツもズボンも真っ黒だったのだ。なんとし
たことか。しかもここは、今度いつ開けても
らえるか分からないようなページではないか。
羊が来た。と思ったら紙魚だ。動きが鈍い。
捕まえた。腹が減ってきた。こいつを食って
生きてゆくしかないのか。意味が渦巻いてい
る。僕は最初何を探していたのか。それが出
口かもしれない。が、もう思い出せない……。